床の間を見上げると、柱が1本だけ違う。 丸太のままだったり、木目がやけに美しかったり。横には段違いの棚があり、その上下に小さな戸棚がついている。
それぞれに名前と役割があります。 名前が分かると、見るべきところも分かります。
この記事では、建築用語集と銘木店の解説をもとに、床の間まわりの部材を順に整理します。
床の間とは何か
建築用語集の定義はこうです。
床の間とは、和室の上座で一般的には床が一段高くなっており、掛軸や置物、花瓶等によって装飾ができる空間
そして、床の間周りは和室の見せ場と位置づけられています。
「上座」である点が、まず押さえどころです。 和室の席次が床の間を基準に決まる理由は和室の上座と下座にまとめています。

床の間そのものの部材
床柱(とこばしら)
床の間と床脇の間に建つ柱です。建築用語集は、意匠的な意味合いが強く、木目や材質が美しい材が使われることが多いと説明しています。
別の解説では、床の間に設けられる化粧柱で、床の間の構成部材の中では最も要となる部材とされています。
形には2つの系統があります。
| 形 | 使われ方 |
|---|---|
| 角柱 | 書院造の格式ある床の間。 正式とされる |
| 丸太・面皮柱 | 数寄屋や茶室の系統。磨き丸太が好まれる |
銘木を扱う店の解説では、一般住宅では磨き丸太が好まれ、床柱は床板と異なる樹種を選ぶことで意匠性を高めるという考え方が示されています。
部屋の印象は、この1本でほぼ決まります。 床の間を見るとき、まず目が行くのもここです。
樹種もさまざまです。スギ、ヒノキ、クリ、ケヤキ、カリンなど、産地や木取りによって表情が変わります。節を見せるか、まっすぐな木目を見せるか、皮を一部残すか。どれを選ぶかで、部屋全体の格が決まってきます。
なお、床柱は構造上の柱とは役割が違います。屋根や天井を支える働きはなく、意匠のために立てられている柱だと考えてください。
床框(とこがまち)
床の間を一段高くするときに、手前側に設ける横木です。建築用語集では下部の床と畳の段差にある横材と説明されています。
框を使わず、蹴込板で納める形式もあり、これを蹴込床と呼びます。
框には塗りのものと木地のものがあり、黒漆塗りの框は格式の高い床の間に使われます。床板との組み合わせで最終的な材が決まるため、床板を先に決めてから框を選ぶ、という順で進められることが多い部材です。
落とし掛け(おとしがけ)
床の間の垂れ壁(小壁)の下端を納めるために取り付ける横木です。上部にある横材で、長押より上の位置に取り付けます。
床柱が縦の線、床框が下の線、落とし掛けが上の線。 この3本で床の間の輪郭ができます。
落とし掛けの位置が低いほど、床の間は落ち着いて見えます。茶室の床の間が低く抑えられているのは、この効果を使ったものです。
床板・畳床
床面の仕上げです。
| 仕上げ | 呼び方 |
|---|---|
| 板材で仕上げる | 板床 |
| 畳を敷く | 畳床 |
床脇の部材
床の間の隣にある一段分の空間を床脇といいます。ここにも決まった部材があります。
違い棚(ちがいだな)
書院造の床脇に設けられる飾り棚です。上下2枚の棚板が段違いに取り付けられます。
細部にも名前があります。
| 部材 | 役割 |
|---|---|
| 海老束(えびづか) | 上下の棚をつなぐ短い束 |
| 筆返し(ふでがえし) | 棚の端に付く装飾。物の落下を止める形 |
上下どちらを高くするかには決まりがあり、床の間側の棚を高くします。
天袋・地袋
| 名称 | 位置 |
|---|---|
| 天袋(てんぶくろ) | 床脇の上部に設けられた戸棚 |
| 地袋(じぶくろ) | 低い位置の戸棚。 書院下や床脇に設ける |
どちらも収納です。 床の間まわりで実用に使える、数少ない部分でもあります。
もともとは、床の間に飾る道具や巻いた掛軸をしまうための場所でした。季節で掛軸を替える使い方をするなら、今でもそのまま役に立ちます。
季節で掛け替えるなら、まず春夏秋冬のどれか一本から始めると負担がありません。床の間の内法高さに収まる丈かを確認してください。
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床の間まわりの活用は床の間の活用アイデアにまとめました。

床の間の形式
床の間には、納め方によっていくつかの形式があります。
| 形式 | 特徴 |
|---|---|
| 本床(ほんどこ) | 床框を据え、床板か畳を敷く。 最も格式が高い |
| 蹴込床(けこみどこ) | 框を使わず蹴込板で納める |
| 踏込床(ふみこみどこ) | 段差をつけず、畳と同じ高さにする |
| 釣床(つりどこ) | 床板を設けず、小壁と落とし掛けだけで床の間を表す |
| 織部床(おりべどこ) | 壁に回り縁状の横木を打ち、掛軸を掛ける簡素な形 |
下へ行くほど簡略になります。 現代の住宅では、踏込床や釣床のように段差の小さい形式が多く採られます。
段差がないから略式、というわけではありません。 茶室では簡素さそのものが選ばれてきました。床の間がいつ生まれ、どう変わってきたかは和室の歴史をたどるで触れています。
マンションや現代の戸建てでは、床の間を設けないこともあります。その場合でも、壁の一部を少し凹ませて飾る場所をつくる、あるいは落とし掛けにあたる横木だけを渡す、といった方法で雰囲気は出せます。釣床や織部床の考え方が、そのまま応用できる部分です。
狭い場所に置くなら、背の低い一輪挿しがまとまります。床板を濡らさないよう、下に薄い板か敷物を挟んでください。
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見るときの着眼点
床の間を見るとき、順番を決めておくと観察が早くなります。
- 床柱|角か丸太か。樹種と仕上げ
- 床框|あるか、蹴込板か、段差そのものがないか
- 落とし掛け|高さと材
- 床脇|違い棚があるか、天袋・地袋の有無
- 床面|板か畳か
この5点で、その床の間の格式と系統がおおよそ読めます。
旅館や料亭、寺社の客殿など、よくつくられた床の間を見る機会があれば、この順で目を動かしてみてください。同じ「床の間」という名前でも、建物の性格によって選ばれている材がまるで違うことが分かります。
自分の家の床の間を把握しておくと、リフォームの相談もしやすくなります。「床柱は残したい」「框だけ直したい」と部材名で言えると、話が早く進みます。
各部の名前を全体で見渡すなら和室の各部名称を図解で解説を、壁まわりの扱いは和室の壁の飾り方を参照してください。


傷めないための注意
床柱と床框は、どちらも仕上げ材です。
- 床框に腰掛けない。 塗りや木地が傷む
- 床柱に物を立てかけない
- 掛軸の釘以外は打たない
- 拭くときは乾いた布。 水や洗剤は避ける
- 直射日光を長時間当てない
床の間は、傷めたときの修復費が高くつく場所です。 銘木が使われていることが多く、同じ材を探すところから始まります。
よくある質問
Q. 床柱は丸太と角柱、どちらが正式ですか?
書院造の格式ある床の間では角柱が正式とされます。丸太や面皮柱は数寄屋や茶室の系統で、一般住宅では磨き丸太が好まれます。どちらが上ということではなく、系統の違いです。
Q. 違い棚の上下に決まりはありますか?
あります。床の間側の棚を高くするのが決まりです。上下をつなぐ短い束を海老束、棚の端の装飾を筆返しといいます。
Q. 床の間に段差がないのですが、略式ですか?
畳と同じ高さに納めたものを踏込床といい、床の間の形式のひとつです。茶室では簡素さが選ばれてきた経緯もあり、段差の有無で格が決まるわけではありません。
Q. 床框に腰掛けてもいいですか?
避けてください。床框は仕上げ材で、塗りや木地が傷みます。銘木が使われていることが多く、交換となると同じ材を探すところから始まります。
まとめ
- 床柱|床の間と床脇の間に建つ化粧柱。部屋の印象を決める1本
- 床框|手前の段差に入る横木。框を使わない蹴込床もある
- 落とし掛け|垂れ壁の下端を納める横木
- 違い棚|床脇の飾り棚。海老束でつなぎ、端に筆返し
- 天袋・地袋|床脇の上と下の戸棚。収納に使える
- 形式は本床・蹴込床・踏込床・釣床・織部床。段差の有無で格は決まらない
名前が分かると、見方が変わります。 まず自分の家の床柱が角か丸太かを見てください。
参考